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遺産(相続財産)の範囲

相続人は、相続により、被相続人が有していた一切の権利と義務を承継します。したがいまして、プラス財産だけではなく、借金などのマイナス財産も遺産(相続財産)として承継します。
遺産(相続財産)に含まれるか否かが問題になるものとして、以下のものがあります。
 

生命保険金

1.保険契約者・被保険者が被相続人で、受取人として相続人中の特定の者が指定されている場合

相続財産には含まれず、保険契約の効果として、受取人として指定された特定の相続人の固有財産になります(最判S40.2.2)。

2.保険契約者・被保険者が被相続人で、受取人を『被保険者又はその死亡の場合はその相続人』、あるいは、単に『相続人』と指定している場合

  • ・特段の事情のない限り、相続財産には含まれず、保険契約の効果として、相続人の固有財産になります(最判S40.2.2)
  • ・この場合、各共同相続人が有する保険金請求権の権利割合は、特段の事情のない限り、法定相続分の割合となります(最判H6.7.18)

3.保険契約者・被保険者が被相続人で、受取人が指定されていなかった場合

保険約款及び法律の規定にしたがって判断されることになりますが、約款において、「被保険者の相続人に支払う。」旨の規定がある場合は、特段の事情のない限り、相続財産には含まれず、相続人の固有財産になります(最判S48.6.29)。

4.保険契約者・被保険者・保険金受取人のいずれもが被相続人の場合

  • ・満期保険金請求権については、満期後に被相続人が死亡した場合は相続財産になります
  • ・死亡保険金請求権については、被相続人の意思の合理的解釈から、相続人を受取人と指定する黙示の意思表示があったと考えるのが相当であるため、相続人の固有財産であって、相続財産ではないと考えます

生命保険金に付随するもの

簡易生命保険の特約還付金

簡易生命保険の特約還付金は、特約保険料にかかる積立部分の返還金で、簡易生命保険特約簡易生命保険の約款上、保険契約者(=被相続人)が請求権者とされているため、生命保険金とは性質が異なり、相続財産となります。

契約者配当金・割戻金

生命保険契約における契約者配当金及び共済契約における割戻金は、約款上、生命保険金とともに受取人に支払われることとされているため、相続財産には含まれず、受取人として指定された特定の相続人の固有財産になります。

前納保険料・未経過保険料

前納保険料・未経過保険料も、約款上、生命保険金とともに受取人に支払われることとされているため、相続財産には含まれず、受取人として指定された特定の相続人の固有財産になります。

死亡退職金

最判S55.11.27、最判S58.10.14、最判S60.1.31

死亡退職金を受け取ることができる者(=受給権者)については、通常、法律、条例または退職金規程といった内規において、民法の規定する相続人の範囲・順位と異なる定めがなされているため、死亡退職金は、受給権者固有の権利として、相続財産には含まれないと考えます(最判S55.11.27、最判S58.10.14、最判S60.1.31)。

最判S62.3.3

死亡退職金の支給規定のない財団法人において、被相続人である理事長の死後、同法人の理事会の決議により、被相続人たる理事長の配偶者に対して死亡退職金を支給する旨の決定がなされた場合について、「相続という関係を離れて被相続人の配偶者個人に支給されたもの」であるとして、相続財産には含まれないとした裁判例(最判S62.3.3)があります。

遺族給付

  • ・遺族給付とは、社会保障関係の特別法によって、死者と一定の関係にある親族に対してなされる給付のことで、遺族年金、弔慰金、葬祭料などがあります
  • ・遺族給付についても、法律により受け取ることができる者の範囲や順位について民法とは異なる定めがなされているため、相続財産ではなく、遺族固有の権利と考えるのが通説です

未支給年金

  • ・未支給年金とは、被相続人死亡により、被相続人が受け取れなかった年金のことであり、年金は後払いとされているため、必ず未支給年金が発生することになります
  • ・未支給年金の受給権者の範囲や順位については、国民年金法・厚生年金保険法等において、民法とは異なる定めがなされているため、未支給年金の請求権は相続財産ではないと解されています(最判H7.11.7)

不動産賃借権

  • ・相続財産に含まれます。
  • ・ただし、公営住宅を使用する権利について、最判H2.10.18は、相続財産には含まれないとしています。

使用貸借の借主の地位

民597条3項では、借主の死亡によって使用貸借は終了すると規定されていますが、個別具体的な事情を踏まえて、同条の適用の有無を判断するのが判例・学説の立場であり、借主死亡の場合でも、使用貸借が存続することもあります。

具体例を挙げれば以下のとおりです。

  • ・建物所有目的での土地の使用貸借の場合(東京地判H5.9.14)
  • ・建物の使用貸借で、貸主と借主との間に実親子同然の関係があり、貸主が借主の家族と長年同居していたことから、貸主と借主の家族との間に貸主と借主の本人との間と同様の特別な人的関係があると評価できる場合(東京高判H13.4.18)

使用貸借の貸主の地位

遺産である建物に被相続人と同居していた相続人は、特段の事情のない限り、少なくとも遺産分割が終了するまでの間は、使用借主として、当該建物に居住することができます。

<最判H8.12.17>

相続により共同相続人の共有となった建物に相続開始前から被相続人の許諾を得て被相続人と同居し、相続開始後これを単独占有している共同相続人の1人に対し、他の相続人が不法行為又は不当利得を原因として持分に応じた賃料相当額の支払を求めた事案について、

「・・・特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである。けだし、建物が右同居の相続人の居住の場であり、同人の居住が被相続人の許諾に基づくものであったことからすると、遺産分割までは同居の相続人に建物全部の使用権原を与えて相続開始前と同一の態様における無償による使用を認めることが、被相続人及び同居の相続人の通常の意思に合致するといえるからである。」と判示しています。

祭祀財産

  • ・系譜(家系図など)、祭具(位牌、仏壇など)及び墳墓(墓石・墓地の永代使用権など)といった祭祀を営むために必要な財産は、祭祀主催者に帰属(民897条)するため、相続財産には含まれません。
  • ・祭祀主催者は、第1に被相続人の指定、第2に慣習、第3に家裁の審判により定まることになります。

遺骨

遺骨の所有権について、「原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて,本件遺骨は慣習に従って祭紀を主宰すべき者である被上告人に帰属したものとした原審の判断は,正当として是認することができ,その過程に所論の違法はない。」と判示した判例(最判H1.7.18)があります。

香典

香典は相続財産には含まれません。
 

この記事の執筆者

弁護士新井教正(アライノリマサ)

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