目次
- 配偶者短期居住権とは
- 配偶者短期居住権が成立するための要件
- 配偶者短期居住権の内容
- 配偶者短期居住権の存続期間(いつまで自宅に住み続けられるのか)
- 配偶者短期居住権の消滅事由
- 配偶者短期居住権に関するQ&A
- (1) 内縁でも配偶者短期居住権は取得できますか?
- (2) 配偶者が相続放棄した場合、配偶者短期居住権は成立しますか?
- (3) 被相続人と配偶者が共有する建物でも配偶者短期居住権は成立しますか?
- (4) 被相続人と第三者が共有する建物でも配偶者短期居住権は成立しますか?
- (5) 配偶者が建物の一部のみに居住していた場合も配偶者短期居住権は成立しますか?
- (6) 被相続人が亡くなった時に配偶者が老人ホームに入居している場合でも、配偶者短期居住権は成立しますか?
- (7) 被相続人が亡くなった時に配偶者が入院している場合でも、配偶者短期居住権は成立しますか?
- (8) 被相続人が死亡した時点で配偶者が使用していなかった部分も使用できますか?
- (9) 配偶者短期居住権を譲渡することはできますか?
- (10) 配偶者が死亡した場合、配偶者短期居住権はどうなりますか?
- (11) 配偶者の方で建物をリフォーム・増改築してもいいのでしょうか
- (12) 配偶者の方で建物を修繕してもよいのでしょうか?
- (13) 配偶者から所有者に対して修繕を請求することはできるのでしょうか?
- (14) 建物や敷地の固定資産税は誰が負担するのでしょうか?
- (15) 建物の譲渡を受けた第三者から明渡しを請求された場合、住み続けることはできないのでしょうか?
配偶者短期居住権とは
配偶者短期居住権とは、夫婦の一方が亡くなった場合に、残された配偶者が、亡くなった人(=被相続人)の所有していた建物に、存続期間(少なくとも被相続人が亡くなってから6か月間)中は、無償で、住み続けることができる権利のことです。
配偶者短期居住権は、平成30年の相続法改正により新たに創設された権利であるため、令和2年4月1日以降に発生した相続(=令和2年4月1日以降に死亡した被相続人の相続)においてのみ、成立します。
配偶者短期居住権が成立するための要件
配偶者短期居住権が成立するためには、以下の5つの要件をすべて満たす必要があります。
- ①被相続人(=亡くなった人)の配偶者であること
- ②被相続人が亡くなった時に被相続人が所有する建物に無償で居住していたこと
- ③配偶者が相続開始時に居住建物にかかる配偶者短期居住権を取得しないこと
- ④配偶者が欠格事由に該当しないこと
- ⑤配偶者が廃除によって相続権を失った者でないこと
配偶者短期居住権の内容
配偶者短期居住権を取得した配偶者は、配偶者短期居住権の存続期間中、
- ①建物中で使用していた部分を
- ②対価を支払うことなく
- ③今までどおりの使い方で
- ④使用する
ことができます。
配偶者短期居住権の存続期間(いつまで自宅に住み続けられるのか)
(1) 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産分割をすべき場合
配偶者は、遺産分割(協議、調停、審判)により居住建物の帰属が確定する日まで、自宅に住み続けることができます。
ただし、被相続人の死亡の時から6か月以内に、遺産分割により居住建物の帰属が確定した場合でも、配偶者は、被相続人の死亡の時から6か月を経過する日までは、自宅に住み続けることができます。
(2) (1)以外の場合
居住建物について配偶者以外の者に取得させる内容の遺言が作成されていた場合や、死因贈与がなされた場合、配偶者が相続放棄をした場合、などが該当します。
この場合、配偶者は、居住建物の取得者から配偶者短期居住権の消滅の申入れがなされ、かつ、申入れがなされた日から6か月を経過する日までは、自宅に住み続けることができます。
配偶者短期居住権の消滅事由
以下の事由が生じた場合、配偶者短期居住権は消滅します。
- ①存続期間の満了
- ②配偶者による配偶者短期居住権の取得
- ③配偶者が死亡した場合
- ④居住建物の全部滅失等
- ⑤居住建物取得者による消滅請求
- 以下のa又はbに該当した場合、居住建物取得者は、催告なくして、配偶者に対する意思表示によって、配偶者短期居住権を消滅させることができます。
- a. 用法遵守義務・善管注意義務に違反した場合
- b. 所有者の承諾を得ずに、第三者に使用させた場合
配偶者短期居住権に関するQ&A
(1) 内縁でも配偶者短期居住権は取得できますか?
A. 内縁では取得できません。
(2) 配偶者が相続放棄した場合、配偶者短期居住権は成立しますか?
A. 成立します。
(3) 被相続人と配偶者が共有する建物でも配偶者短期居住権は成立しますか?
A. 成立します。
(4) 被相続人と第三者が共有する建物でも配偶者短期居住権は成立しますか?
A. 成立します。
ただし、被相続人が第三者に対して使用の対価を支払っていた場合、配偶者は、当該対価を負担する必要があります。
(5) 配偶者が建物の一部のみに居住していた場合も配偶者短期居住権は成立しますか?
A. 成立します。
建物の一部を店舗として使用していたなどの場合も、配偶者短期居住権は成立します。
(6) 被相続人が亡くなった時に配偶者が老人ホームに入居している場合でも、配偶者短期居住権は成立しますか?
A. 老人ホームに生活の本拠が移っていると考えられるため、配偶者短期居住権は成立しません。
ただし、ショートステイなどで自宅に戻ることが予定されている場合は、配偶者短期居住権は成立します。
(7) 被相続人が亡くなった時に配偶者が入院している場合でも、配偶者短期居住権は成立しますか?
A. 退院後は自宅へ戻ることが予定されている場合のように、自宅が生活の本拠としての実態を失っていないと評価できる場合は、配偶者短期居住権は成立します。
(8) 被相続人が死亡した時点で配偶者が使用していなかった部分も使用できますか?
A. 使用できません。
配偶者短期居住権に基づき配偶者が使用できるのは、被相続人の死亡時点で配偶者が使用していた部分のみです。
(9) 配偶者短期居住権を譲渡することはできますか?
A. 譲渡することはできません。
(10) 配偶者が死亡した場合、配偶者短期居住権はどうなりますか?
A. 配偶者が死亡した場合、配偶者短期居住権は当然に消滅し、相続の対象にもなりません。
(11) 配偶者の方で建物をリフォーム・増改築してもいいのでしょうか
A. 所有者の承諾を得れば、配偶者の方で建物をリフォーム・増改築できます。
(12) 配偶者の方で建物を修繕してもよいのでしょうか?
A. 所有者の承諾を得なくても、配偶者の方で必要な修繕を行うことができますが、修繕費用は「通常の必要費」として配偶者が負担します。
(13) 配偶者から所有者に対して修繕を請求することはできるのでしょうか?
A. 修繕の請求をすることはできません。
(14) 建物や敷地の固定資産税は誰が負担するのでしょうか?
A. 「通常の必要費」として、配偶者が負担します。
(15) 建物の譲渡を受けた第三者から明渡しを請求された場合、住み続けることはできないのでしょうか?
A. 住み続けることはできません。配偶者短期居住権については対抗要件制度が設けられていないため、権利を主張できないためです。
ただし、配偶者短期居住権があるにもかかわらず第三者に譲渡した者(=相続人又は受遺者)に対して、損害賠償を請求することはできます。
この記事の執筆者
代表弁護士の新井教正(あらいのりまさ)と申します。
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