遺産分割調停を欠席すると何か不利なことはあるのでしょうか?
相続・遺言Q&A目次
1 一部の調停期日を欠席する場合
お仕事や体調不良などの合理的な理由があれば、特に不利になることはありません。
ただし、必ず事前に裁判所へ連絡し、指示に従うようにしてください
2 全部の調停期日を欠席する場合
(1) 知らないうちに調停が成立してしまうという不利は生じません
遺産分割調停が成立するためには、相続人全員の参加が必要であり、欠席している相続人がいるにもかかわらず、参加している相続人だけで遺産分割の内容を決めて調停を成立させることはできません。
そのため、同意もしていない遺産分割内容で調停が成立してしまうという不利が生じることはありません。
(2) ただし、争点に対する裁判官の考えを聞ける機会を逃してしまうという不利が生じてしまいます
この点、普段の調停には同席しませんが、調停を行う調停委員会には審判へ移行した場合に担当となる可能性が高い裁判官も含まれています。
調停でのやり取りの概要はすべて裁判官へ報告されますし、調停で提出された書面(証拠を含む。)にも目を通しているため、調停段階で、裁判官(ただの裁判官ではなく、実際に審判を下すことになる可能性が高い裁判官です。)は、審判となればどのような判断を下すかについてもある程度の考えを持っているのが通常です。
調停に参加すれば、そのような裁判官の考えを聞くことができる可能性があり、本当に審判で白黒はっきり付けるのが得なのかを判断するチャンスが得られる可能性があり、これは無益な紛争を避けるという観点からは大きなメリットになります。
ところが、全部の調停期日に欠席してしまうと、審判へ移行した場合に担当となる可能性が高い裁判官の考えを聞けるかもしれない機会を逃してしまうこととなってしまうため、私は、全部の調停期日に欠席するのは不利である、と考えています。
3 審判期日を欠席する場合
調停が不成立となった場合、自動的に審判に移行します。
審判は相続人の主張や提出した証拠に基づいて裁判官が決定で遺産分割の内容を定めるものであり、遺産分割の内容を定めるにあたり、相続人の同意は必要ありません。
審判を欠席すると、自身の主張や証拠を提出することができず、相手方の主張や証拠だけに基づいて遺産分割の内容が定められる可能性が出てくるため、不利になります。
4 まとめ
一部の期日であれば別ですが、調停にせよ審判にせよ、全部の期日を欠席するのは不利になるため、できるかぎり出席されることを強くお勧めします。
どうしても出席できない、あるいは、出席したくないという場合、自身の主張を記載した書面と証拠を提出しておく、という方法もあります。
しかしながら、一般の方が、法的なポイントを踏まえた上で説得力のある主張を書面に記載したり、適切な証拠を適切なタイミングで提出する、というのは簡単にできることではありません。また、裁判官の考えを聞くチャンスは出席しなければ得られません。
ですので、どうしても出席できない、あるいは、出席したくないという場合は、弁護士へ依頼されることを強くお勧めいたします。
弁護士が必要な理由と弁護士へ依頼するメリットについてはこちら>>>
執筆者プロフィール
- 累計1000件以上の相続相談に対応し、NHKの番組でも『遺産相続問題に詳しい弁護士』としてご紹介いただきました。相続に関する書籍も多数出版しています。難易度の高い相続案件も対応可能です。初回相談では、相談者の方のお話をじっくりお伺いし、相談者の方の立場に立って考え抜き、できるだけ簡単な言葉で分かりやすく説明することを心がけています。
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