相続人は後妻と先妻の子で、被相続人は自宅不動産を後妻へ相続させる旨の自筆証書遺言を作成していました。被相続人の遺産としては、自宅不動産以外にも預貯金がありましたが、預貯金は遺言の対象となっていなかったため、後妻が預貯金を相続するためには先妻の子との間で遺産分割協議を成立させる必要がありました。自宅不動産に加え、預貯金の半額を相続したいというのが後妻の希望でした。
しかしながら、後妻と先妻の子という関係性から、自ら交渉を行うのは負担が大きいとのことで、後妻から遺産分割の交渉を依頼いただくことになりました。
後妻は自筆証書遺言に基づき自宅不動産を取得しており、これは後妻の特別受益に該当します。後妻に特別受益があるということになると、後妻は預貯金の半額を取得することができない結果となるため、黙示の持戻し免除の意思表示があったと評価できないかを検討しました。
相続法が改正され、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が他方に対し自宅不動産を遺贈した場合、持戻し免除の意思表示があったものと推定されることになりましたが、遺贈の時点(=遺言作成の時点)で20年が経過している必要があります。本件では、遺言作成時点で20年は経過していなかったものの、この改正がなされた背景や目的などからすれば、仮に裁判になったとしても、黙示の持戻し免除の意思表示があったと評価される可能性が高いと判断し、当該内容で交渉に臨むことにしました。
先妻の子にも代理人弁護士が付きましたが、交渉の結果、後妻が概ね預貯金の半額を取得する内容で遺産分割協議を成立させることができました。